美瑛の丘「哲学の木」を倒したのは誰だったのか?

美しい風景を求めて、たくさんの観光客が北海道にやってくる。

四季折々に美しい風景を映し出す美瑛の丘も、北海道観光の人気スポットのひとつだ。

そんな美瑛の丘に、かつて1本の大きなポプラが立っていた。

 

丘の傾斜と反対に傾くように立ち、その姿は思いにふける人の姿に見えた。

いつしか人は、その木を「哲学の木」と呼ぶようになった。

やがて、そのポプラは美瑛でも有数の撮影スポットとして有名になり、多くの人が押し寄せるようになった。

 

 

美瑛の丘は、観光客の目を楽しませるために造られたものではない。

ここは、生活のために畑作を営んでいる農家の私有地なのだ。

自分の土地を写真に撮られ、農作業する姿を写真に撮られようとも、生活が楽になることはない。

 

「哲学の木」も、ある農家の畑の中に立っていた。

この木の樹齢は不明らしいが、かなり老いて弱っていたらしい。

倒れると畑作への影響もあったとのこと。

農家の収益を考えれば、切り倒すことも出来たはずだ。

しかし、畑の所有者は切らなかった。

たくさんの観光客がこの木を楽しみに訪れるのだから、との思いがあったからだろう。

 

そんな思いを裏切るかのように、この木に近づこうと、多くの観光客が畑の中に踏み入ってきた。

そのため、大切に育てた農作物が、何度も踏み荒らされることになった。

立入禁止の看板も建てた。近づいて記念写真を撮らないように、幹に赤ペンキでバツ印も付けた。

畑の所有者は、無断で侵入する観光客と言い合いになることもあったのだろう。

見かねた観光協会も、この木の存在を紹介しないようにした。

それでも、畑に侵入する観光客は後を絶たなかった。

 

畑の所有者は、疲れ果てたようだ。

この木がなければ、静かに農作業ができるようになる。

でもこの木がなくなれば、きっと多くの人が悲しむだろう。

畑の所有者は、そう思い悩みながらも、この木を倒す決断をした。

 

2016224日、美瑛の丘に立つ「哲学の木」が倒された。

重機であっという間に倒れたらしい。

 

人は美しいものを求めながらも、美しいものを汚そうとする。

美しいものは、人に喜びを与えると同時に人を悲しませる。 

老木は、そう語りながら雪原に倒れていったのかもしれない。

 

この木を倒したのは誰?

なぜ、この木は倒されたの?

「哲学の木」は、そう思い悩む人の姿を映していたのかもしれない。